口語訳演習「有明の別れ」

「思ひかけぬ道の空にさすらへぬと思ひ給へつるを、おぼえなくうれしくも」
「予期せぬことに道の途中で迷ってしまったと思っておりましたところ、
思いがけなく(・・・してただいて)、うれしくも」
とのたまふに、けはひいとなつかしく、うち笑ひて、
と左大臣がおっしゃると、尼の様子はとても親しげで、微笑みながら、
「いとあやしくおぼしめされ侍りぬべけれど、この二十年にもやおよび侍らむ、
「まことに不思議にお思いなさるのも当然ですが、もう二十年にもなるでしょうか。
かかる草の庵に跡を閉ぢ、虎狼を友として、
このような粗末な庵に引きこもり、虎や狼を友として、
『今は』と、
「これからは生きて行こう」と(誓ったので)、
この世のことを思ひ給へまずることなきを、
この世のことに思い巡らすこともないのですが、
いとすずろにおぼしめさるべきに、
(あなた様が)非常に思いがけなく思われるにちがいないので、
つつみ侍れど、
申し上げずにおりましたが、
あやしく思ひ給へらるること侍るにより、
不思議に思われることがございますので、
今さらにこの世に残る心とや、
今となってもこの世に心残りがあるのでしょうか、
かへりて道の妨げに思ひ給へ悩まれてなむ、
(申し上げないと)かえって仏道の妨げになると思い悩みましたあげく、
かくも聞こえさせ侍りつる。
このように申し上げてしまいました。
以下、略。
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