中3作文演習課題


問い
じぶんの周囲には、あまりじぶんの同類はみつからないのに、書物のなかにはたくさんの同類がみつけられるというのはなぜだろうか。とあるが、筆者の述べている二つの答えの違いを明確にした上で、あなたの考えを二百字以内にまとめて書きなさい。
(H24新宿高校入試問題 4番より)



(省略)


ところで、そういう或る時期に、わたしはふと気がついた、「じぶんの周囲には、あまりじぶんの同類はみつからないのに、書物のなかにはたくさんの同類がみつけられるというのはなぜだろうか。ひとつの答えは、書物の書き手になった人間は、じぶんとおなじように周囲に同類はみつからず、また、喋言ることでは他者に通じないという思いになやまされた人たちではないのだろうか、ということである。もうひとつの答えは、じぶんの周囲にいる人たちもみな、じつは喋言ることでは他者と疎通しないという思いに悩まされているのではないか、ただ、外からはそう視えないだけではないのか、ということである。後者の答えに思いいたったとき、わたしは、はっとした。わたしもまた、周囲の人たちからみると思いの通じない人間に視えているにちがいない。うかつにも、わたしは、この時期にはじめて、じぶんの姿をじぶんの外で視るとどう視えるか、を知った。わたしはわたしが判ったとおもった。もっとおおげさにいうと、人聞が判ったような気がした。もちろん、前者の答えも幾分かの度合で真実であるにちがいない。しかし、後者の答えのほうがわたしは好きであった。限から鱗が落ちるような体験であった。

わたしは、文章を書くことを専門とするようになってからも、できるだけそういう人たちだけの世界に近づかないようにしてきた。つまり、後者の答えを胸の奥の戒律としてきた。もし、わたしが書き手としてすこしましなところがあるとすれば、わたしがほんとうに畏れている人たちが、ほかの書き手ではなく、後者の答えによって発見したじぶんをじぶんの外で視るときのじぶんの凡庸さに映った人たちであることだけに基いている。
(吉本隆明「詩的乾坤」による)

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