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早大文・文化構想 国語出題資料
西郷南洲翁遺訓集
第四ケ条
万民の上に位する者、己を慎み、品行を正しくし、驕奢を戒め、節倹を勉め、職事に勤労して、人民の標準となり、下民其の勤労を気の毒に思ふ様ならでは、政令は行はれ難し。然るに草創の始に立ちながら、家屋を飾り、衣服を文り、美妾を抱へ、蓄財を謀りなば、維新の功業は遂げられ間敷也。今と成りては、戊辰の義戦も偏へに私を営みたる姿に成り行き、天下に対し戦死者に対して、面目無きぞとて、頻りに涙を催されける。
国民の上に立つ者(政治、行政の責任者)は、いつも自分の心をつつしみ、品行を正しくし、偉そうな態度をしないで、贅沢をつつしみ節約をする事に努め、仕事に励んで一般国民の手本となり、一般国民がその仕事ぶりや、生活ぶりを気の毒に思う位にならなければ、政令はスムーズに行われないものである。ところが今、維新創業の初めというのに、立派な家を建て、立派な洋服を着て、きれいな妾をかこい、自分の財産を増やす事ばかりを考えるならば、維新の本当の目的を全うすることは出来ないであろう。今となって見ると戊辰(明治維新)の正義の戦いも、ひとえに私利私欲をこやす結果となり、国に対し、また戦死者に対して面目ない事だと言って、しきりに涙を流された。
第十ケ条
人智を開発するとは、愛国忠孝の心を開くなり。国に尽し家に勤るの道明かならば、百般の事業は、従て進歩す可し。或は耳目を開発せんとて、電信を懸け、鉄道を敷き、蒸気仕掛けの器械を造立し、人の耳目を聳動すれども、何故電信鉄道の無くては叶はぬぞ、欠くべからざるものぞと云ふ処に目を注がず、猥に外国の盛大を羨み、利害得失を論ぜず、家屋の構造より玩弄物に至る迄、一々外国を仰ぎ、奢侈の風を長じ、財用を浪費せば、国力疲弊し、人心浮薄に流れ、結局日本身代限りの外有る間敷也。
人間の知恵を開発、即ち教育の根本目的は愛国の心、忠孝の心を持つことである。国の為に尽し、家のため働くという、人としての道理が明らかで有るならば、すべての事業は進歩するであろう。耳で聞いたり、目で見たりする分野を開発しようとして、電信を架け、鉄道を敷き、蒸気仕掛の機械を造って、人の目や耳を驚かすような事をするけれども、どういう訳で電信、鉄道が無くてはならないか、欠くことの出来ない物で有るかということに目を注がないで、みだりに外国の盛大なことをうらやみ、利害、損得を議論しないで、家の造り構えから、子供のオモチャまで一々外国の真似をし、身分不相応に贅沢をして財産を無駄使いするならば、国の力は衰退し、人の心は軽々しく流され、結局日本は破綻するより他ないではないか。
第十二ケ条
西洋の刑法は専ら懲戒を主として苛酷を戒め、人を善良に導くに注意深し。故に囚獄中の罪人をも、如何にも緩るやかにして鑒戒となる可き書籍を与へ、事に因りては親族朋友の面会をも許すと聞けり。尤も聖人の刑を設けられしも、忠孝仁愛の心より鰥寡孤独を愍み、人の罪に陥るを恤ひ給ひしは深けれども、実地手の届きたる今の西洋の如く有りしにや、書籍の上には見え渡らず、実に文明ぢゃと感ずる也。
西洋の刑法はもっぱら、罪を再び繰り返さないようにする事を、根本の精神として、むごい扱いを避けて、人を善良に導く事を目的としており、だから獄中の罪人であっても緩やかに取り扱い、教訓となる書籍を与え、場合によっては親族や友人の面会も許すということである。もともと昔の聖人が、刑罰というものを設けられたのも、忠孝、仁愛の心から孤独な人の身上をあわれみ、そういう人が罪に陥るのを深く心配されたが、実際の場で今の西洋のように配慮が行き届いていたかどうかは書物には見あたらない。西洋のこのような点は誠に文明だとつくづく感ずることである。
第十三ケ条
租税を薄くして、民を裕にするは、即ち国力を養成する也。故に国家多端(たたん:多くのことにお金が必要)にして、財用(資金)の足らざるを苦むとも、租税の定制を確守し、上を損じて下を虐たげぬもの也。能く古今の事跡を見よ。道の明かならざる世にして、財用の不足を苦むときは、必ず曲知小慧(きょくちしょうけい:悪知恵の働く)の俗吏(ぞくり:官吏の蔑称)を用ひ、巧みに聚斂(しゅうれん:租税を取り立てること)して、一時の欠乏に給するを、理材に長ぜる良臣(優秀な役人)となし、手段を以て、苛酷に民を虐たげるゆえ、人民は苦悩に堪へ兼ね、聚斂を逃れんと、自然譎詐(きっさ:いつわる)狡猾に趣き、上下互に欺き、官民敵讐(てきしゅう:仇敵)と成り、終に分崩離拆に至るにあらずや。
税金を少なくして国民生活を豊かにすることこそ国力を高めることになる。だから国の事業が多く、財政の不足で苦しむような事があっても決まった制度をしっかり守り、政府や上層の人達が損をしても、下層の人達を、苦しめてはならない。昔からの歴史をよく見るがよい。道理の明らかに行われない世の中にあって、財政の不足で苦しむときは、必ずこざかしい考えの小役人を用いて、その場しのぎをする人を財政が良く分かる立派な役人と認め、そういう小役人は手段を選ばず、無理やり国民から税金を取り立てるから、人々は苦しみ、堪えかねて税の不当な取りたてから逃れようと、自然に嘘いつわりを言って、お互いに騙し合い、役人と一般国民が敵対して、終には、国が分裂して崩壊するようになっているではないか。
第十八ケ条
談国事に及びし時、慨然として申されけるは、国の凌辱せらるるに当たりては、縦令国を以て斃るとも、正道を践み、義を尽すは政府の本務也。然るに平日、金穀理財の事を議するを聞けば、如何なる英雄豪傑かと見ゆれども、血の出る事に臨めば、頭を一処に集め、唯目前の苟安を謀るのみ、戦の一字を恐れ、政府の本務を墜しなば、商法支配所と申すものにて、更に政府には非ざる也。
話が国の事に及んだとき、大変に嘆いて言われるには、国が外国からはずかしめを受けるような事があったら、たとえ国が倒れようとも、正しい道を踏んで道義を尽くすのは政府の努めである。しかるに、ふだん金銭、穀物、財政のことを議論するのを聞いていると、何という英雄豪傑かと思われるようであるが、実際に血の出ることに臨むと頭を一カ所に集め、ただ目の前のきやすめだけを謀るばかりである。戦の一字を恐れ、政府の任務をおとすような事があったら、商法支配所、と言うようなもので政府ではないというべきである。
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